2021年1月25日、衆議院予算委員会。立憲民主党・小川淳也が質疑に立った。
小川は現在、「議員運営委員会野党筆頭理事」。普通は質疑に立つことはないポジションだという。
異例の抜擢は新型コロナ感染の当時者だから。さらには「お控え答弁」しかできない菅義偉首相と、その閣僚たちをロゴスとパトスで追及するためなのだろう。
小川淳也は香川1区の衆議院議員。現在、五期目。同区には菅内閣デジタル相の平井卓也がいる。
今年は必ず選挙がある。選挙区で小川が平井に勝ったのは2009年、民主党の「政権交代」選挙の一度だけ。ワニ動画を好むデジタル相には、実家である四国新聞と西日本放送が味方につく。ならばわたしたち小さなメディアが小川淳也のことを伝えよう。僕は香川県坂出市の出身で実家は大平正芳の大ファンだった。
2020年9月17日に『なぜ君は総理大臣になれないのか』(大島新監督/2020年)という映画を見た。高松市で見ようとして見逃し、人生初入院をしてなかなか見れず、ようやく大阪のシアターセブンで見ることができた。見られて良かった。50歳になろうとしている国会議員の持っている誠実さにまっすぐ共感した。この人の言葉は力を持っている。ちなみに、この日は菅義偉が第99代内閣総理大臣に指名された翌日である。
「誠実さを笑うか泣くか、いまの日本が浮かび上がる」というのが映画のキャッチフレーズだった。いまの日本は沈みかけているようにみえる。
「立憲民主党の小川淳也です。わたしからもすべての犠牲者に哀悼の意を表し質問に立たせていただきます。総理、まず……」
議場から拍手が起こる。野党質問のトップバッター。イントロから惹き付けられる。
「総理、まず(短い間)咳がとまらないとか、咳こむとかいう報道が散見されます。今朝も朝からちょっと声のかすれが気になる。体調はいかがですか?」
「ご心配ありがとうございます。喉が痛くて声が出ないだけで、いたって大丈夫です」
「前総理のこともございましたし、想像以上のストレス、プレッシャー、重圧だと思います。くれぐれもご自愛をいただきたいと思います」
当日のNHKニュース7は、このシーンを菅総理の答だけを切りとって編集していた。「野党側」というのは小川淳也のことである。
続けて、質問通告しなかった問いを発する小川議員。
「政権内の発信の乱れがありましたので、総理自身の手でけりをつけてください。テーマはふたつです。ワクチンの確保は今年前半を見込んでいるのか、目指しているのか?そしてオリンピックの対応、様々に検討されていると思うが、中止も検討の対象に入っているのか、いないのか、この2点です」
「ワクチンについては目指してます。で、オリンピック、パラリンピックについては挙行する準備を整えてます」
「これ、あえて河野大臣にも苦言を呈しますが、発信力には敬意を表します。が、よく中で調整してから発信してください。総理、簡潔な答弁、ありがとうございます」
「今日は感染当時者として質問するのですが、その前にトップバッターとして補正予算と特措法に関して、ひとつふたつ訊きます。補正予算は、総理も反省があると思うんですね、GoToをもっと早くやめていたら、どうなったのか。緊急事態宣言をもっと早く発出していたら状況は変わっていたのかもしれない。外国人の流入をもっと早くとめていたら、変異種の流入を防げたかもしれない。総理なりにいろいろ反省があると思う。でも、全部、あとの祭りですよ。そこでひとつだけお訊きします。この補正予算にわたしは一兆円のGoTo予算が入っていることは不謹慎だと思う。3月までにやるのですか、税金つかって、旅行キャンペーン。撤回して組み替えを求めたいと思います」
「補正予算はコロナ対策をしている。丁寧に説明し早期に成立させコロナ予備費を活用し……」
と官僚作文を読み上げる菅義偉くん。
「脱炭素については、あっ、GoToトラベルについては地域経済の下支えに貢献するものであり(中略)然るべき時期に事業を再開する時期に備えて計上しています」
我らが宰相は言い間違いが多すぎる。紙を読んでいてさえ。
「総理、通告すると紙を読まれるので困るんですよ。最初の一問、わたし、通告してませんから単純に答えてくださいましたよね。総理の言葉が国民に届くか届かないか、これ、政治的に大きな争点になっていますから。ぜひ善処をお願いしたい。
「さっきちょっと言い忘れたのですが、『ワクチンの今年前半確保を目指す(ゆっくりと強調)』、という答弁は去年の秋、所信表明で総理は『来年前半までにすべての国民に届く数量を確保し、無料で接種します』とおっしゃっているんですね。だからこれは明らかに後退しているんですよ。もちろん、相手がある話ですからそう簡単ではないと思う。そこらあたりは、まあ充分(ちょっと考える間)、これね、だけどそうはいっても不都合なことをどれだけきちんと国民に説明できるかが、ますます問われてきますからね。そういう意味では必要以上に責めるつもりはないんですが、きちんとした発信なり答弁、ぜひお願いしたいと思います」
小川淳也が質疑に立つときには徹底的にロジックを組み立てるようだ。言葉を事実が支える。
「それと、GoToキャンペーンの実施を3月にやる、という意思表示ですからね。医療予算が足りるとか足りないとかいう話とはちょっと別に、わたしはまた国民に誤ったメッセージを発すると思いますよ。今回の補正予算にGoToキャンペーンが入っていること自体が。その意味で警鐘を鳴らしたいと思います」
小川の持ち時間はわずか20分、先を急ごう。
「もう一点、特措法です。やはりこの政権は前政権から夏に極めて無策だった。検査の拡大も病床の確保も。わたし、これ、あえて申し上げますが、前厚生労働大臣たる加藤官房長官の責任も大きいと思う。散々、去年、厚生労働委員会で議論させていただきましたよ。そのうえで、今、都内だけで6千人の方が入院を待ってる。全国で3万人、4万人と言われてる。この状況のなかで、入院を拒否したら懲役刑だと。わたし、ちょっと、気がしれないんですよ。どういう神経で、これ議論してるのか?!詳しくはまた後続の質疑者がおこなわれると思いますが、端的に、この入院拒否に対する懲役刑については撤回のうえ修正に応じることを求めます。総理」
議長が厚生労働大臣を指名する。
「総理に訊いてます」議長は無視する。
「協力要請というのがございまして、信頼のもとに病床を確保しないと」と滔々と病院対策に関する答弁を始める田村厚労相。小川議員が総理に質問したのは懲役刑についてである。
「あっ、入院拒否ですか、失礼しました。正統な理由があったら、ということでして、入院したいのに入院する場所がないのに、それは当然、懲役刑がありうるはずがないわけでございまして、よほど悪質な場合において、しかも立法事例としては今も病院から逃げ出される方がおられる、ということにおいて知事会からの要請があったということです」
議場が騒然としているなかで「そんなことは当然なんです」という小川の声が聞こえる。
「そんなことは当然なんです」小川が立ち上がる。議長の指名の声とかぶる。
「あえて、国民感情と申し上げますよ。今、不安で自宅待機している人がたくさんいる。総理、聞いてくださいよ。そして(詰まったような間)、自宅で亡くなる方も多発していますよね。そういう状況のなかで、懲役刑を議論すること自体が笑えないんですよ、これ。皮肉にもほどがある、逆説。なので……これ、まあ後続質疑者に譲りたいと思いますが、これは与野党で大きな議論ですよ。ね、総理」
議場から「そうり、そうり」という声が小さく聞こえる。
「ちょっと、わたしも野党内のいろいろ、声があるので、総理、一言、いただけますか」
「まず、新型コロナの患者のなかには医療機関から、これ、無断で抜け出してきたという事案もあります。先刻、知事会からも罰則の創設を求める緊急提言をいただいてます。こうしたことをふまえて、感染拡大防止策の実効性を高めるために罰則を設ける、とこういうふうに考えております」総理、立つ。
確かに全国知事会は1月6日に事業者に対する休業や営業時間の短縮要請に実効性を持たせるよう、罰則規定を盛り込んだ新型コロナ特措法の改正を求めた。
ただし、入院拒否者に対する懲役刑は求めていない。これは感染症法の改正案である。
「まさに、そこがこれから与野党協議になると思いますが、立法事実を立証する責任がありますからね。一体、どのくらいあるのか、把握してるのか、それも含めて。そういう前提で、わたしは国民感情と申し上げたわけですが、国民感情からすれば、むしろ処罰されるべきは満足な入院環境を整えられなかった政府の側じゃないのか、と」
「そうだ」と野党の声がそろう。
「それこそが、国民の今、抱えている思いだと思いますよ。そのことは強く申し上げます。それで、入院に関して、いろいろ、ちょっと確認するのですが、石原元幹事長が感染されて入院されたという一報に接しました。この点は(短い間)、心からお見舞いを申し上げ、一日も早いご回復をお祈りしたいと思います。ちょっと坂本大臣にお聞きしますが、大臣、これ発症日に会食、会合されてますね。わたし、不謹慎だと思う。てっきり今日は濃厚接触者として来ないのかと思った。ちょっと時間もないので先に厳しめに申し上げますが、厳しくいえば、これ引責に値すると思いますよ、大臣。いかがですか?」
この時点で持ち時間の半分を消化した小川淳也はちょっと焦りつつ、タイムリーな話題にふっていく。これは質問通告していたのだろうか。
「いったん、答弁、受けとめますが、にわかには信じがたいのですね。こういう不用意な会食をこの期に及んでする人たちが会食時以外、用意周到にほんとにマスクつけたんですか。坂本大臣、これ脅かすわけじゃなく、これ、わたし感染当時者としての経験として申し上げますが、だいたい、これ濃厚接触者と認定される場合とされない場合があります。そして、された方のうち、発症する方はだいたい一週間か十日でほとんどの方が発症される。だからみんな十四日間、自宅待機するんですよ。初日、2日目に検査を受けただけではすまないのが、こういうことなんです。だから控えなきゃいけなかったんですよ。総理もこれだけ会食批判を受けて、今この期に及んで閣僚が会食しているというのは、極めて忸怩たる思いだと思う。総理、これも厳しめに申し上げます。更迭すべきじゃないですか?」
小川淳也は生真面目で気づかいの人だ。9月22日、僕は故郷の国会議員とzoomで会合したことがある。丸亀高校の同級生が招待してくれた。
様々な質問に対して、小川は「諸先輩、ありがとうございます!」という誠実な声から話を始めた。隣の香川2区、玉木雄一郎にも気をつかっていた。
「さきほどの坂本大臣のここでの発言を信じていますから更迭は考えていません」
20年以上先輩のかすれた声の政治家が端的に答える。
「まあ、野党の立場だから厳しめに申しあげるのですが、それにしても(短い間)、情けないですよ。ほんとにこういう報道に接するとね。それでねえ、総理、わたし、これはほんとに気をつけて言わなきゃいけないんですが、この件に関して国民の間にこういう声もあると受けとめていただきたいんです。一部報道です。一部報道ですが、『あれだけ会食ダメと言っておきながら自分たちだけは特権かよ、症状ある人が入院できないのになんで無症状で即入院できるんだ?』という声もあるんですよ。これは石原さんご本人、あるいはご家族のお気持ちを考えると、とても(長い間)、言えないし言いにくい。しかし現実問題、今も申し上げたように入院できない、自宅で亡くなっているという方々が多発している状況のなかで、この国政に携わる、しかも自民党の大幹部がこういうことだと疑念を生じるのも無理はないとわたしは思う。この声に対して総理大臣として自民党総裁として、ひとつ受けとめてコメントいただけませんか」
「石原元大臣がどういうかたちで入院したのか、わたしは承知をしていません。ただ、今、委員からご指摘のあったこと、ひとつのご意見として受けとめさせていただきます」
ただの意見として受けとめたという回答である。声はかすれていても趣旨はくっきり明解だ。
「あの、難しいおたずねであることはよく承知のうえでのおたずねでした。もう残り時間、ほんとにわずかなのですが、本題に入らせていただきます」
気づかいには時間がかかる。気づかいをスルーできる人は、その時間に気をつかわない。
本題の質問はまさに感染当時者たる国会議員の毛穴から出てきた言葉だと思う。39度の発熱をした毛穴からの汗と震えを感じた。
「あの、これに関しては個人情報になってまいります」
論点をずらそうとする田村大臣。したたかな政治家であることは確かだ。
「わたくしがそれをここでそれを申し上げることによって、国民のみなさまで同じような状況の方がおられたときに、そのような圧力がかかる。これ実はですね、国会の審議のなかでもワクチンで、やはり打ったか打たなかったかを言うことに対して、聞くこと自体もいろんな圧力になる、というご指摘もいただいております。だからわたしがここで言うのは適当でないので控えさせていただきます」
「委員長!」小川の手が素早く挙がる。
「今、坂本大臣、自分がPCR検査を受けましたとおっしゃったじゃないですか。田村大臣、これね、自分が安全かどうかという問題ももちろん大事なんです。しかし、同じ状況に置かれた方がどうすべきかを、あなたの行動はこの国の厚生労働大臣として体現していなきゃいけないんですよ、だからもし受けてないなら受けてないでいい。受けたならなぜ受けたのか、濃厚接触者にあたらないのに。というのは濃厚接触者の範囲が狭いってことです。それは実際、どうなっているのか。そういう方々はね、みんな、自費検査に追い込まれてるんですよ。これは個人的な不安もある。社会的責任、社会的圧力もある。この対応を放置してきたのが厚生労働大臣(短い間)、この国のです。ということを申し上げ残念ですが、時間ですので。これー(間)、まっ、わたし今日、議員運営員会なんです。本来の所属は。なので、異例のかたちで質疑をさせていただいていて、ほんとに貴重なお時間をお預かりしているのですが、もし、緊急事態宣言に今後なんらかの変動がある場合は、総理、ぜひ議員運営員会に自らご出席なさってください。今日はほとんどのことが指摘に終わってますので、はなはだ不本意ですが、また改めての機会をと思います。ありがとうございました」
最後の質問を田村大臣は自席で首を横に振りつづけながら聞いていた。感染症対策の要、厚生労働大臣の真意は分からない。
小川淳也の20分10秒が終わった。
君には、ぜひ、総理大臣になってほしい、と僕は思った。
なぜ、主権者たる国民は君を総理大臣にできないのだろうか、と考えつづける。
彼の息づかいは映像を見てください。小川淳也登場シーンを頭出ししています。
https://youtu.be/NZe2RnkWp8M?t=17452
質疑のあと、小川淳也は以下のツイートをした。
「久々の国会質疑で緊張しました。わずか20分の時間に野党トップバッターとしての役割と患者当事者としての役割の両方を押し込むのは、本当に至難の業で悶絶しました。荒い質疑に加え、最後に伝えたかった大切なことも結局伝えずじまいです、、ごめんなさい」
コンテキスター(文脈家)として補足をしておこう。僕に香川1区の選挙権はないが、一応、故郷の先輩でもあるし。
2020年12月5日。朝日新聞・WEB論座にノンフィクション作家、中原一歩の小川淳也インタビュー記事が掲載されている。
「国会議員3人目の新型コロナ感染で感じたこと、考えたこと」
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2020120500004.html?page=1
小川淳也衆議院議員がコロナ感染。国会議員で3人目――
11月17日の夕方に配信されたニュースを見て驚いた。というより、慌てた。さかのぼること6日前、私はある出版社の編集者と2人で、永田町にある衆議院会館で小川淳也氏本人にインタビューをしていたからだ。
人間は正直な生き物だと思った。その一報を聞いた時、小川氏よりも、まず自分の身体を案じた。すぐに行きつけのクリニックで抗原検査をし、翌日、別の病院でPCR検査を受けた。結果はいずれも「陰性」だった。
中原一歩が濃厚接触者と認定されるはずがない。もちろん自費であろう。感染当時者である小川淳也が「伝えたい大切なこと」は、このインタビューの後半にあった。
――実際に感染して分かったことはありますか?
陽性が判明すると、記憶をたどりながら濃厚接触者を洗いだすのですが、基本的にマスク着用で接触した人は濃厚接触者として認定されてないのです。つまり、私の場合、これに該当するのは、家族、事務所秘書、後援会関係者などマスクを外して会食をした数人でした。幸いにも、いずれも「陰性」でした。
しかし、実際にはマスクをつけて接触した非濃厚接触者は大勢おられます。濃厚接触者と認定されれば公費で感染の有無を検査できますが、非濃厚接触者の方は、自費で高額の検査を受けてもらわなければなりません。
マスクをつけていたから公費では検査できませんというのは、やはりおかしい。濃厚接触者を狭く絞って、できるだけ公費負担を減らすという従来の政府の方針は限界がある。やはり、誰しもがいつでも、どこででも、何回でも検査を受けることができる仕組みを確立すべきです。
感染当時者、しかも国会議員という国民の権利を代表する立場としての〈毛穴から出た言葉〉であろう。
小川淳也の主張は「いつでもどこでも誰でも何度でも無料で」というニューヨーク方式の「社会的」PCR検査体制を国の施策とすべし、ということだと思われる。間違っていたら、ごめんなさい。
2020年11月19日感染報告 |
濃厚接触者の判断がされた。でも、濃厚な人以外、自分がマスクをして会話をした人にほんとに感染させていないのだろうか? 大切なあの人、この人に。
そこにさらに「社会的圧力」がかかる。感染者は39℃の高熱下で自分の「責任」について悩む。
小川淳也が「社会的PCR検査」を熱望しても無理はない。無症状者でも「いつでもどこでも誰でも」、感染者の社会的不安を払拭するためにも検査を受けられるようにすること。
感染症対策の基本は「検査して隔離」である。感染経路を絶てば感染は広がらない。SARS-CoV-2は「人類史上、一番変なキャラのウイルス」(岩田健太郎)である。
サイレント・キャリアの発見のためにも、PCR検査のキャパシティ・ビルディングを心の底から訴えかけねばならない。小川淳也は自分のミッションについて自覚的である。
立憲民主党は羽田雄一郎参院議員をCOVID-19で失っている。
小川淳也に関する文脈レポートも例によって長くなってしまった。
書いている間に、第三次補正予算は修正されずに国会で承認されてしまう。
1月28日、感染症法改正案から刑事罰(懲役刑・罰金刑)は削除された。あたりまえの結果が得られたことを喜びたい。
小川淳也は誠実に自らの質疑を振り返る。「報告とお礼」として映像をツイッターに投稿した。その2回目(1月27日)を書き起こす。
短い質問時間のなかで言及できなかったことがあります。これ、とても大切なことだと感じています。質疑をとおして、閣僚や偉い人たちが会食も、そして検査も、そして入院もなんだか特別あつかいされているように見えること。これが、国民の共感や信頼につながらない最大の理由のひとつのような気がします。そこでわたしは、こんなことを申し上げるのは、不格好だし、そんなことはまったくつもりもなかったんですが、実は、ひとつ、思い起こすことがありまして。退院したあと、社会復帰する前に、PCR検査受けた方がいいと、ある大学の高名な先生に言われました。今、運用上、それは必要ないことになっているのですが、先生に言われたのでそうしようと思ったんです。その先生からうちの大学においで、と。わたしが検査してあげるから、と言われました。ありがたいな、と思ったんです。でも、ふと、そういうところから自分がおかしくなるんじゃないか、と思って丁重にお礼を申し上げてお断りしたんです。そして、都内に新設されたばかりの検査センターに自転車で行って、その列に並びました。ささいなことであり、どうでもいいようなことなんですが、今多くの方が何を不安に思っているのか、どういうところで、ご苦労をなさっているのか、そういうことにできるだけ自分の身体をひきつけないと、そこに身を置かないと、やっぱり正しい政策判断や政策決定というのは難しい。そのことをぜひ、政権に対して、また与党幹部に対して訴えたかった。時間があれば、ぜひ、そういったエピソードも盛り込んで政権の姿勢を正したかった。そんな思いでした。ありがとうございます。
「そこに身を置いた」当時者としての小川淳也は新型コロナウイルス対策に身体をひきつけていくことであろう。
【補足資料】
(上昌広・倉重篤郎/毎日新聞出版/2020年11月20日)
小川淳也の質疑に関連しているとコンテキスターが判断した部分を引用します。
――さて問題のPCR検査です。ズバリなぜ増えないのでしょうか。(倉重)
端的に言ってこれは人災だと思います。なぜなら感染症法の問題だからです。現行の同法で、検査対象を濃厚接触者に限定している部分を無症状感染者にまで広げられるようにすればいいだけのことです。なぜ対象を限定しているのか。この検査を特定の組織、団体だけで利権化しよう、という動機があったのだと私は睨んでいます。(中略)
日本では本当の意味での国民主権の議論をしていないのではないか、という問題提起です。(64頁)
――国民主権の議論というのは?
例えば、コロナの時に休まずに働いてくれる方々のことを考えてください。医師や看護師や医療スタッフから介護職、学校の先生、警察官や自衛官、こういう方々をエッセンシャルワーカー(社会で必要不可欠な労働者)と呼びますが、こういう方々こそ率先してPCR検査を受ける権利があるはずだと思いませんか。(中略)
ただ、今の法制度の立て付けでは、そういう方々は無症状者であるがゆえに、つまり法で規定された濃厚接触者という範疇には当てはまらないがゆえに検査対象者にはならないのです。彼らを検査対象に加えるためには感染症法の改正が必要になるのですが、これに強硬に反対してきたのが厚労省であり、その官僚集団に担がれた加藤勝信前厚労相であり、後任を引き継いだ田村憲久現厚労相なのです。田村さんは、自民党のコロナ対策本部長の時は、テレビの討論番組で、エッセンシャルワーカーに対して検査をすべきだと主張されていたにもかかわらず、です。(65頁・66頁)
【参考資料】
2020年9月24日、小川淳也zoomイベント後の拙投稿
https://www.facebook.com/fumio.tanaka/posts/3271246586285479
朝日新聞・WEB論座(2020年12月30日)
「勝ち馬追わず、敗者を背負え 問われる政治家の覚悟と矜持」大島新
https://webronza.asahi.com/journalism/articles/2020122900008.html?page=1
『なぜ君は総理大臣になれないのか』公式パンフレット
『僕が「PCR」原理主義に反対する理由』
(岩田健太郎/集英社/2020年12月12日)
『丁寧に考える新型コロナ』
(岩田健太郎/光文社/2020年10月30日)
朝日新聞、毎日新聞、東京新聞
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