『釣場速報』' 92/04/10号掲載
「気をつけろ!」と釣友の声が聞こえたときは遅かった。ガタガタときて、激しくエアーの抜ける音がする。バースト、しかもダブルだ。谷を怖がるあまり、山側により過ぎて落石と接触してしまった。左の前輪と後輪のサイドが気持ちいいくらい見事に裂けている。 三月二十一日早朝、もう少しで夜が明け切る頃の出来事だ。
「そろそろ綺麗なアマゴを釣ろうや」と言う釣友の誘いに乗って、選んだのが天川水系、神童子谷であった。昨年三月、釣友は赤鍋ノ滝上流まで釣り上り、二十五センチクラスを十五匹ほど堪能したらしい。久々に見つけた桃源郷をお前にも味合わせてやりたい、と興奮した釣友とともに私がこの谷を初めて訪れたのは昨年四月の事。しかし、このときは車止めに先行者がいて、入渓をあきらめた。
そして、この日が満を持しての再挑戦のはずだった。小雨が降る絶好のアマゴ日和、間違いなく一番乗りということで、思わずアクセルに力が入ってしまった。しばし茫然としていた二人であったが、気を取り直して修理に取りかかる。しかし、一輪をスペアーに変えたのはともかく、指が二本入る傷にタイヤファンドが効く訳もなく、冷たい雨の中、とぼとぼと山道を降りる羽目になった。いくらス-パー4WDでもタイヤが無くっちゃ走れない。傾いたまま置き去りにする愛車を見ながら不注意な運転を反省することしきりであった。
さて、みたらい食堂のご主人、中山自動車と川合のモービルGSの皆さん、本当にありがとうございました。おかげさまで予想よりも、よっぽど早く戦線に復帰できました。一時は車を捨ててバスで大阪まで変えることを覚悟しておりました。
性懲りもなく神童子谷、沢又をめざして走る釣りバカ二人、今は崩れ果てた遊歩道の入口についたのは、昼前だった。私にとっては、念願の桃源郷、ダブルバーストの悪夢は忘れて気合いを入れ直す。トガ淵を越えるまでに私も釣友も二十五センチを一匹ずつ。これが神童子谷の実力だ、などとうそぶきつつ水量が増えた、へっついさん(両側から崖が迫る難所の名称)をこわごわ越える。朝からの雨はこの頃には吹雪に変わっていた。
問題は赤鍋ノ滝の高巻である。濡れて滑りやすく、迷いやすいルートを釣友の後からついていく。久々の本気の谷行きに緊張する。一直線に滝壺が見えるポイントは下を見ずに通過する。ようやく、高巻を終えようとしたとき、同じルートを下ってくる先行者に会った。聞けば、ノウナシ谷に一人で入っていたが、吹雪のため引き返してきたとのこと。大した釣果は無かったようだ。
少々がっかりしながらも河原に降りて、仕掛けを再セットしようとしたとき、またトラブルである。穂先のリリアンがとれている。予備の竿はない。残念、ここまで来て釣れない。なんてこった。
仕方がないので釣友だけに奥へ行ってもらう。河原で待つしかない。まあいいや、朝からいろいろあったことだし、ここはひとつ、のんびりと…などと余裕があったのは、三十分ぐらいか。釣り始めたのが遅かったせいもあって、次第に暗くなってくる。吹雪は強くなってくる。寒い。心細い。
動物園の白熊のように狭い河原をうろうろする。呼び子の笛を吹きまくる。ようやく釣友の姿が見えたときには、心底ほっとした。さすがは我が師匠、十八センチを二匹は確保していた。ただし、彼のほうも残した私が気になって、集中力に欠けたとのこと。
渓流釣りを始めて十年、この日ほどいろいろなことを経験したのは、珍しい。川合のかつら館に着いたときはさすがにほっとした。
それでも、翌二十二日、九尾谷、五色谷、山上川上流、小泉川、千本谷、天の川本流の中庵住、と走り回り、かろうじて数匹のアマゴを手にし、テンカラのお稽古までしたのは、よーやるわとしか言いようがない二人組でした。
「気をつけろ!」と釣友の声が聞こえたときは遅かった。ガタガタときて、激しくエアーの抜ける音がする。バースト、しかもダブルだ。谷を怖がるあまり、山側により過ぎて落石と接触してしまった。左の前輪と後輪のサイドが気持ちいいくらい見事に裂けている。 三月二十一日早朝、もう少しで夜が明け切る頃の出来事だ。
「そろそろ綺麗なアマゴを釣ろうや」と言う釣友の誘いに乗って、選んだのが天川水系、神童子谷であった。昨年三月、釣友は赤鍋ノ滝上流まで釣り上り、二十五センチクラスを十五匹ほど堪能したらしい。久々に見つけた桃源郷をお前にも味合わせてやりたい、と興奮した釣友とともに私がこの谷を初めて訪れたのは昨年四月の事。しかし、このときは車止めに先行者がいて、入渓をあきらめた。
そして、この日が満を持しての再挑戦のはずだった。小雨が降る絶好のアマゴ日和、間違いなく一番乗りということで、思わずアクセルに力が入ってしまった。しばし茫然としていた二人であったが、気を取り直して修理に取りかかる。しかし、一輪をスペアーに変えたのはともかく、指が二本入る傷にタイヤファンドが効く訳もなく、冷たい雨の中、とぼとぼと山道を降りる羽目になった。いくらス-パー4WDでもタイヤが無くっちゃ走れない。傾いたまま置き去りにする愛車を見ながら不注意な運転を反省することしきりであった。
さて、みたらい食堂のご主人、中山自動車と川合のモービルGSの皆さん、本当にありがとうございました。おかげさまで予想よりも、よっぽど早く戦線に復帰できました。一時は車を捨ててバスで大阪まで変えることを覚悟しておりました。
性懲りもなく神童子谷、沢又をめざして走る釣りバカ二人、今は崩れ果てた遊歩道の入口についたのは、昼前だった。私にとっては、念願の桃源郷、ダブルバーストの悪夢は忘れて気合いを入れ直す。トガ淵を越えるまでに私も釣友も二十五センチを一匹ずつ。これが神童子谷の実力だ、などとうそぶきつつ水量が増えた、へっついさん(両側から崖が迫る難所の名称)をこわごわ越える。朝からの雨はこの頃には吹雪に変わっていた。
問題は赤鍋ノ滝の高巻である。濡れて滑りやすく、迷いやすいルートを釣友の後からついていく。久々の本気の谷行きに緊張する。一直線に滝壺が見えるポイントは下を見ずに通過する。ようやく、高巻を終えようとしたとき、同じルートを下ってくる先行者に会った。聞けば、ノウナシ谷に一人で入っていたが、吹雪のため引き返してきたとのこと。大した釣果は無かったようだ。
少々がっかりしながらも河原に降りて、仕掛けを再セットしようとしたとき、またトラブルである。穂先のリリアンがとれている。予備の竿はない。残念、ここまで来て釣れない。なんてこった。
仕方がないので釣友だけに奥へ行ってもらう。河原で待つしかない。まあいいや、朝からいろいろあったことだし、ここはひとつ、のんびりと…などと余裕があったのは、三十分ぐらいか。釣り始めたのが遅かったせいもあって、次第に暗くなってくる。吹雪は強くなってくる。寒い。心細い。
動物園の白熊のように狭い河原をうろうろする。呼び子の笛を吹きまくる。ようやく釣友の姿が見えたときには、心底ほっとした。さすがは我が師匠、十八センチを二匹は確保していた。ただし、彼のほうも残した私が気になって、集中力に欠けたとのこと。
渓流釣りを始めて十年、この日ほどいろいろなことを経験したのは、珍しい。川合のかつら館に着いたときはさすがにほっとした。
それでも、翌二十二日、九尾谷、五色谷、山上川上流、小泉川、千本谷、天の川本流の中庵住、と走り回り、かろうじて数匹のアマゴを手にし、テンカラのお稽古までしたのは、よーやるわとしか言いようがない二人組でした。
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